ライダー国連事務次長(政策担当)が示した「3つの答え」と国連改革の現実

赤ネクタイ姿でマイクの前に座るガイ・バーナード・ライダー 国連事務次長
ガイ・バーナード・ライダー 国連事務次長
国連旗と日本国旗が並ぶ
国連旗と日本国旗が並ぶ

1. 開会・冒頭挨拶

猪口会長 挨拶

多国間主義の重要性と現状への危機感について述べた。

現在、世界各地で多くの戦争や紛争が頻発している深刻な現状に言及。この混迷を極める国際情勢において、単独行動主義ではなく、各国が協調して課題解決を図る「多国間主義(マルチラテラリズム)」の精神を今一度堅持し、機能させていくことが極めて重要であると強調した。

2. ガイ・バーナード・ライダー 国連事務次長(政策担当)

国連幹部会議(CEB)の東京開催について

現在、国連のトップや主要機関の幹部が集まる最高位の会議(CEB:国連システム調整事務局長委員会)が東京で開催されている。

ライダー国連事務次長(政策担当)が示した「3つの答え」と国連改革の現実 2026年5月21日

40名規模の国連主要幹部・トップが来日し、一堂に会している。この極めて重要な国際会議をアジア初の開催地・東京に誘致・開催できたことの重みを強調した。

この重要な会議がアジアで開催されるのは今回が史上初であり、その記念すべき初開催の地として「東京」が選ばれたことの意義深さを強調した。

事務総長が示す「3つの集約された答え」

第一 冷戦期を超える複雑化と、国連内部の対立・亀裂

現代の世界が直面する危機は冷戦期よりも遥かに複雑である。

国際社会における対立や亀裂が深刻化する一方で、国連の側にもこれらに対処する準備が十分にできていないという厳しい現状があり、多国間システムとしての舵取りを極めて難しくしている。

第二 国連の財務的な問題(財政の危機と軍事費増大の悪循環)

国連の活動を支える根本的な課題として、深刻な財務問題が挙げられる。

国際社会において「拠出・分担の義務に対して、適切な敬意が払われていない(義務的分担金の未払い)」という現状がある。

さらに、義務的なものに留まらず、各国からの「非義務的な拠出(任意拠出金)」も減少傾向にある。その背景には、世界的な緊張高まりに伴う「各国の防衛費・軍事費の増大」があり、安全保障への予算シフトが国連や多国間協調への拠出を圧迫しているという、構造的な悪循環を指摘した。

結果として、義務的・非義務的拠出を合わせた国連全体の財政は「26%減少」という極めて危機的な水準に落ち込んでいることを明かした。

予算削減による直接的な影響

  • PKO(国連平和維持活動)の縮小・減少 紛争地域での治安維持や平和構築活動に支障が出ている
  • 医療支援(ワクチン供与等)の減少:最も支援を必要とする脆弱な地域への、ワクチンをはじめとする不可欠な医療物資の配布や人道支援が滞る事態を招いている

第三 国際協力への懐疑と自国第一主義

国際協力への懐疑心とナショナリズムの台頭は、現在の国際秩序に対する重要な挑戦である。経済的不安や国内政治の分断、グローバル化の恩恵が十分に行き渡らないとの認識が、国民の間で「自国優先」志向を強めている。

国連が断行する改革の4つの柱(+⑤各国国会議員とのパートナーシップ強化)

限られた予算(26%減)の中で、本当に支援を必要とする人々に効率的かつ確実に手を差し伸べるために、国連は①「予算の削減」②「徹底的な効率の追求」③「平和維持活動(PKO)の精査・見直し」④「人道的対応の再設計」の4つの柱を中心に、支援プロセスの枠組みそのものをアップデートしようとしている。

④「人道的な対応(支援枠組み)の再設計(リデザイン)」として、国連において実地で人道支援を担当する代表的な6つの主要機関(IOM(国際移住機関), UNICEF, WFP, UNHCR, OCHA, UNDP)の間でばらばらだった調達業務などのバックオフィス機能を一本化し、共通バックオフィス(Common Back Office)の構想によって「合理的な調達」を実現し、徹底的なコスト削減と効率化を図る、非常に具体的な構造改革のプランが示された。

さらに補助的な施策として⑤各国国会議員とのパートナーシップ強化を打ち出した。国際協力への懐疑論(第三の危機)に対抗するため、各国において「多国間主義の重要性」を有権者(国民)へ粘り強く伝えていく上で、国民の代表である「国会議員との強力な提携・パートナーシップ」が極めて重要であると位置づけ、世界的な連携強化を呼びかけている。

日本における国連への信頼度の課題

ライダー氏自ら、日本の世論調査中における国連への信頼度・支持の現実を把握していることも明かした。

日本は国連への多大な資金拠出国であるにもかかわらず、国内における国連への信頼度や支持(評価)は、必ずしも高くないという世論調査の結果を受け、このことは国連が「なぜ日本に対して効率性を証明しなければならないのか、そして「なぜ国会議員とのパートナーシップ(有権者への説明)が必要なのか」という改革の動機そのものに直結する、決定的なピースであると認識していることが伺えた。

日本と国連の緊密な外交連携(歴史的意義)

グテーレス国連事務総長が来日し、高市総理や茂木外務大臣と個別に首脳会談を行い、「日本が国連改革を強く後押しし、主体的に関与していく」という固い約束が交わされたばかりである。

ライダー事務次長が東京でのCEBについて言及した背景には、こうした日本政府と国連トップとの緊密な外交連携の事実がある。国会改革推進議員連盟が主催した本講演が、日本にとっての国連改革への主体的関与を推進する歴史的な契机となることが期待される。

講演全体の総括(ライダー氏による最後のメッセージ)

ライダー氏の演讲の尾声として、常任理事国5カ国(米国・英国・フランス・ロシア・中国)のうち2カ国が国際法を無視している現状への危機感が示された。

その上で、日本に対する2つの期待が示された:

  1. 1国際法を順守すること — 法に基づく国際秩序維持の模範的な役割を継続すること
  2. 国連改革の声を上げ続けること — 加盟国の一員として、主体的な改革議論を率先して推進すること

これは、多国間協調の崩壊の危機に日本がどう立ち向かうべきかを示す、今回の講演全体の「究極のまとめ」となる決定的なメッセージである。

2026年 次期国連事務総長選挙の立候補(推薦)者

2026年末に任期満了を迎えるグテーレス事務総長の後任選び(任期は2027年〜)について言及した。

今回は地域ローテーションの慣例から「中南米・カリブ海地域」からの選出が有力視される中、現在までに正式に推薦・立候補に名乗りを上げた(一時的に推薦され後に辞退・撤回となった候補を含む)以下の6名の顔ぶれが示された。

  1. ミチェル・バチェレ氏(チリ元大統領、元国連人権高等弁務官 / ブラジル・メキシコ推薦)
  2. ラファエル・グロッシ氏(アルゼンチン、現IAEA〈国際原子力機関〉事務局長)
  3. レベッカ・グリンスパン氏(コスタリカ、現UNCTAD〈国連貿易開発会議〉事務局長)
  4. マッキー・サル氏(セネガル前大統領、元AU〈アフリカ連合〉議長 / ブルンジ推薦)
  5. マリア・フェルナンダ・エスピノサ氏(エクアドル元外相、元国連総会議長 / アンティグア・バーブーダ推薦 ※5月12日擁立)
  6. ビルヒニア・ガンバ氏(アルゼンチン、元「子どもと武力紛争」担当国連事務総長特別代表 / モルディブ推薦 ※3月下旬に推薦撤回)

今後の候補者選考プロセスの展望(坂口課長の補足)

阪口課장은「現在名前が挙がっているこれら6名で、候補者が出そろったわけではない」と指摘した。

参考として、グテーレス現事務総長が初めて選出された前回(2016年)の本格的な事務総長選挙においては、最終的に13名もの候補者が乱立して熾烈な争いを繰り広げた経緯に言及した。

今後の加盟国間の外交交渉や推薦プロセスの進展に伴い、新たな大物対立候補が滑り込みで擁立される可能性が十分にあり、今後の各国の駆け引きを注意深く見極めていく必要があると分析した。

参考リンク