北海道栗山町/ 議会基本条例 視察 報告
榊原平 2008年5月15日(木)
この報告では,北海道夕張郡栗山町の議会基本条例について,2008年5月に行った視察のリポートを紹介します。議会基本条例とは,議会のあり方や機能を定めた条例で,栗山町では全国に先駆けて制定しました。この条例がどのように議会や町政,住民の意識に影響を与えたのか,夕張市の破綻との関係は何か,今後の課題は何かなどについて,私の見解を述べる。
1.栗山町の概要と視察の動機
北海道夕張郡栗山町。人口1万4千人の農業の町。隣には自治体の財政破綻で有名になった夕張市がある。 栗山町は平成18年5月に議会基本条を制定した。
それからちょうどまる2年の現在,全国から視察者が殺到している。
私は、このたび、全国で初めて議会基本条例を制定した北海道夕張郡栗山町を視察した。私は安城市で自治基本条例策定に関わっている市民である。私の視察参加の動機は,栗山町が議会基本条例を制定することで住民の意識がどう変わったのか私は知りたいこと、また現在,地元の安城市でかかわっている自治基本条例策定のヒントを何か得たいと思ったからである。 このレポートでは栗山町の議会改革の内容や成果、今後の課題などを紹介する。
2.視察の様子
今回の視察グループの有志メンバーは以下の6名。冨田潤(豊川市議会議員),守屋輝彦(神奈川県職員),近藤幸子(神奈川県愛川町議会議員),佐飛宏尚(伊勢新聞社),相川元晴(日本未来リーグ)そして私,榊原平。我々グループの他に全国の9つの市議会からの視察団が訪れ,総計84名もの視察者がおり,会場は満員状態だった。視察説明会には橋場利勝議長と議員2名(一人は共産党系女性議員)によってパワーポイントを使った説明が行われた。
3.栗山町議会基本条例の特色
栗山町議会基本条例の特色を抜粋すると次のとおりである。
- 一般質問での一問一答方式の採用(条文として明文化)
- 議会報告会(住民との意見交換)
- 一般会議
- 「請願および陳情」を住民からの政策提案と位置づける。また提案者からの意見を聞く機会を制度化。
- 議員同士の自由討議、反問権の拡大(首長側の逆質問)
日本の各地自治体では,議会の活性化策として,定数削減などが行われている。しかし,単純に議員の数を減らすだけではなくて,議員が発言力やコントロールをもてるよう,議員自身がもっと勉強すべきであるという。 現在,栗山町では議会基本条例が最高規範として位置づけられている。自治基本条例はない。 議会基本条例の効果として,議員に緊張感が生まれ,市民から無駄な陳情なくなり,地域経営の視点で町制運営が行われるようになったそうである。 議会基本条例で取り入れられた仕組みは次のとおりである。
(1)議会報告会
年に3,4回議員自ら町内各地で議会での審議内容について町民に報告し,町民の質疑に議員自らが回答をする。 町政全体が質問されるので議員は必死に勉強するようになる。議員自身の後援会報告会と議会報告会とは性格が異なる。報告会では,議員は自身の党派や信条とらわれることなく,市制の立場で説明・答弁を行う。
(2)一般会議
議会が必要なときに町民や執行機関と自由に意見交換することができる場。住民から要望されたときに開催。参加人数に応じて議員が参加する。
(3)自由討議
質疑が終わった後,動議や議長判断で,議員同士の自由討議ができる。これまでは,本会議等では議員が町長等に質疑したあと,議員が賛否を明らかにして賛同を求める討論を行い,採決を行っていた。町長提案の議案について,議員同士で議論を交わす場はなかった。
(4)反問権
議員の質問に対して,町長等が論点整理の逆質問ができる。何を聞かれているのかわからないまま,長々細々と答弁してしのごうとするようなことのないようにするのが目的。実際は,この程度の反問は今までも行われていたが,明文化し規則上もできるようにしたものである。
4.議会基本条例制定後の効果
(1)総合計画に議会側から対案
修正案を実現する
総合計画の原案(行政側が作成)に議会としての対案を作成(全国初)し,修正を実現する。以前ならコンサルに頼んで作らせた総合計画であるが,当初,審議会に議員2名を委員としてだしていた。途中からやめにして,議会で独自に調査研究し策定。審議会の前で説明し議会側の対案を採用させる。総合計画は栗山町の哲学であるという。また「夕張になりたくない」との想いで,総合計画には町債残高の推移予測を掲載する。
(2)議会での予算案修正
行政から上程された予算案(原案)において土地開発公社の債務保証額5億円を議会側で1億円に圧縮を実現。反対意見もあったが,対案で上げてくれと迫り,押し切る。予算案の審議は自由討議で行う。
(3)市民力アップ
無理な陳情が少なくなっている。市民力は以前と比べて高まってる。夕張が隣にあり,実際に栗山町は夕張と密接であるので財政問題には神経質であるという。こうした議会改革が実際に「市民力アップ」に繋がっている。
◆なぜ栗山町で改革ができたのか?
夕張市の財政破綻は、栗山町にとって隣接する自治体の危機を目の当たりにした衝撃的な出来事でした。この出来事が、栗山町の議会改革への危機感を一層高め、議会基本条例の制定へとつながったのある。
会派がないので、会派に拘束されることなく、それぞれの議員が個別に問題意識をもつ。
2元代表制(首長も議員も住民から直接選ばれる)を強く意識する。行政(市長)と議会は協力しつつも互いに競い合う関係であるという。議長と議会事務局のリーダーシップが議会基本条例を制定させた。全国的に見れば,大抵,議会の議長職は権力のたらい回し。町議会のインターネット中継は議長が進める。「議員は部落の代表」というのを取っ払いたかったという。(議会基本条例は神奈川県議会,三重県議会もやる。)
今後の課題
現栗山町長は,自治基本条例をつくりたいという。
①議会基本条例 ②行政基本条例”(=自治基本条例から議会を取り除いたもの) ③教育基本条例 が町制運営の3本柱になってくるという。 女性と若い人の政治参加が必要。
夕張の破綻の背景(山本修司・栗山町議のお話)
「破綻するのが目に見えていても議員はボーナスまで貰っていた。」 「炭坑関係者は『燃料はタダ,水はタダ,電気はタダ』,炭鉱に行けばすべてタダ。炭坑は産業として優遇されていた。」 「炭坑にいけば,何の出費もなく何百万円稼げる。工員は,出勤してトロッコに乗り,炭鉱に潜って,石炭がでる所までたどり着くのに2~3時間。到着すれば既にお昼で、それから昼飯を食べて1時間。実際に石炭を掘る作業をするのはわずか1時間。そして,またトロッコに乗って炭鉱からでるのに2~3時間。夕張で働いている人は仕事をしない。」 「炭鉱職員と工員とで意識の格差があった。職員にエリート意識。工員の子供と職員の子供との間にも意識の格差があった。」 「豊満経営と町民の(自治)意識の欠如が夕張市を破綻に導いた。」
5.栗山町を参考に
議員本来の役割は,政策や意見等の議案の提出し、議論することである。しかし,今日の地方議会をみると,行政が用意した予算案や条例案にのっかっているだけのようである。栗山町では議会改革によって議員が党派信条をこえて本質的な議論をする姿がみえた。今後の私の行動としては,取り組んでいる自治基本条例の中に栗山町を参考に議会が活発に議論し政策提案されるようなしくみを盛り込みたい。(以上)
まとめ
栗山町の議会基本条例は,議員の発言力やコントロール力を高め,議会と行政の競争関係を生み出し,町政の透明性や効率性を向上させた。また,住民の政策提案や意見交換の機会を増やし,市民力をアップさせた。夕張市の破綻と比較して,栗山町の議会改革の意義や必要性が際立つ。今後の課題としては,自治基本条例や教育基本条例の制定,女性や若者の政治参加の促進などが挙げられる。
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