「量子もつれ」が拓く、新しい光センシング―京都大学の竹内教授が第40回浜松コンファレンスで講演

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量子もつれ光で赤外分光法を革新する方法

「量子もつれ」が拓く、新しい光センシングの世界―京都大学の竹内繁樹教授が浜松コンファレンスで講演

「浜松コンファレンス」アクトシティ浜松・中ホールで開催された講演『量子もつれ』が拓く、新しい光センシングの世界」

2023年11月3日、浜松市中区のアクトシティ浜松で開催された第40回浜松コンファレンスにおいて、京都大学大学院工学研究科の竹内繁樹教授が、「『量子もつれ』が拓く、新しい光センシングの世界」と題して講演しました。竹内教授は、量子もつれとは何か、どのように光センシングに応用できるか、そしてその将来的な展望について語りました。

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投稿者: @taira.sakakibara
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量子もつれとは

量子もつれとは、離れた場所にある二つ以上の量子が互いに影響を及ぼす現象です。

例えば、光子という光の粒子が量子もつれになると、一方の光子の性質を測定すると、もう一方の光子の性質も同時に決まります。この現象は、アインシュタインが「不気味な遠隔作用」と呼んだほど不思議なものですが、実際に実験で確認されています。

量子もつれは、通常の物理法則では説明できない現象ですが、量子力学という理論では自然なものです。量子力学では、物質や光は波と粒子の両方の性質を持ちます。

波として振る舞うときは、確率的な振幅や位相というパラメータで表されます。粒子として振る舞うときは、位置や運動量というパラメータで表されます。しかし、これらのパラメータは同時に正確に測定することができません。これを不確定性原理と呼びます。

不確定性原理により、量子は測定されるまでは確定されていない状態にあります。この状態を重ね合わせと呼びます。重ね合わせは、複数の可能性を同時に持っていることを意味します。例えば、コインを投げたときに表か裏か決まらない状態を想像してください。これが重ね合わせです。しかし、コインを見るときには表か裏かどちらか一方に決まります。これが測定です。

測定することで重ね合わせが崩れることを収縮と呼びます。収縮することで量子は確率的に一つの値を取ります。しかし、この値は測定するまで予測することができません。また、測定した値は再現性がありません。例えば、同じコインを何度も投げても毎回表か裏か変わります。

量子もつれは、この重ね合わせと収縮の現象を利用して、離れた場所にある量子を相関させることです。例えば、二つの光子が量子もつれになると、それぞれの光子は重ね合わせの状態にあります。しかし、一方の光子を測定すると、もう一方の光子も同時に収縮します。このとき、二つの光子は同じ値を取ります。例えば、一方の光子が水平偏光であると測定されたら、もう一方の光子も水平偏光であることが分かります。これは、二つの光子が互いに影響を及ぼすことを意味します。しかし、この影響は物理的な力ではなく、量子力学的な相関です。この相関は、距離や時間に関係なく存在します。これが量子もつれの不思議さです。

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2022年のノーベル物理学賞の受賞者と受賞理由の詳細について- 受賞者は、アラン・アスペ博士、ジョン・クラウザー博士、アントン・ツァイリンガー博士の3人です。

彼らは、それぞれフランス、アメリカ、オーストリアの物理学者で、量子もつれという現象を研究し、その実験的検証と応用に貢献しました。 受賞理由は、「量子もつれ状態の光子を使った実験、ベルの不等式の破れの確立、および量子情報科学の先駆的な研究に対して」です。

量子もつれとは、2つ以上の量子が互いに相関した状態にあることを指します。この状態では、片方の量子の性質を観測すると、もう片方の量子の性質も同時に決まるという不思議な現象が起こります。 – ベルの不等式とは、1964年にジョン・ベル博士が提唱した、量子もつれの現象を説明するために必要な条件を表す数式です。この不等式は、量子もつれの現象が、私たちの直観に基づく古典的な物理法則に従っていないことを示唆しています。

量子もつれ光と光センシング

竹内教授は、この量子もつれを利用して、光センシングを行う方法について紹介しました。

光センシングとは、光を使って物質や現象を測定する技術です。例えば、赤外分光法は、物質が赤外光を吸収する特徴を利用して、物質の種類や構造を識別する方法です。

しかし、赤外分光法には問題があります。赤外光は人間の目には見えませんし、赤外光を検出するためには高価で大きな機器が必要です。

そこで竹内教授らは、量子もつれ光を使って赤外分光法を改良する方法を考案しました。量子もつれ光とは、二つの光子が量子もつれになった状態のことです。この量子もつれ光を赤外光と混ぜると、可視光のみで赤外分光ができるようになります。これは、量子もつれ光の干渉効果によるものです。

干渉効果とは、波が重なり合って強めたり弱めたりする現象です。例えば、水面に二つの波がぶつかったときに起こります。波長や位相が同じ波が重なるときは強められます。これを強める干渉と呼びます。波長や位相が逆の波が重なるときは弱められます。これを弱める干渉と呼びます。

量子もつれ光では、二つの光子が同じ波長や位相を持ちますから、強める干渉が起こります。しかし、赤外光と混ぜることで、波長や位相が変わりますから、弱める干渉が起こります。この干渉効果により、可視光の強度や色が変化します。この変化は赤外分光法で得られる情報と同じですから,可視光だけで物質の種類や構造を識別できます。

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量子センシングの可能性と展望

竹内教授は、これらの方法は、量子もつれ光の特性を活かした「量子センシング」の一例であると説明しました。量子センシングとは、量子の現象を利用して、従来のセンシング技術では不可能だった測定を行う技術です。量子センシングは、医療や環境、産業など様々な分野で応用される可能性があります。

例えば,医療分野では,量子センシングは,生体分子や細胞,組織などの微小な構造や機能を高感度に測定することで,病気の診断や治療に役立てることができます。また,環境分野では,量子センシングは,大気や水中の汚染物質や有害物質を迅速に検出することで,環境保護や災害対策に貢献することができます。さらに,産業分野では,量子センシングは,材料や製品の品質や性能を高精度に評価することで,製造や開発に革新をもたらすことができます。

竹内教授は、今後は、量子もつれ光の光源をさらに高性能化し、集積化することで、量子センシングの実用化に向けて研究を進めると述べました。また、量子もつれ光の他にも、量子ドットやナノダイヤモンドなどの新しい量子素子を使って、量子センシングの可能性を広げることも目指すと話しました。

竹内教授の講演は、聴衆から多くの質問や感想を引き出しました。浜松コンファレンスは、最先端の科学技術を通じて、市民と新しい文化を考えるイベントです。竹内教授の講演は、その目的にぴったりのものでした。

量子もつれ顕微鏡

量子もつれ顕微鏡とは、光学顕微鏡の一種で、互いに相関した光子のペアを光源として用いることで、物理学上の限界を超えた感度をもつ顕微鏡です。

この顕微鏡は、北海道大学と京都大学の研究グループによって世界で初めて実現されました。量子もつれ顕微鏡の特徴は、以下のとおりです。

  1. 他の光学顕微鏡よりも高感度 – 量子もつれ光によって、レーザー光による従来型顕微鏡の1.35倍の感度を達成し、標準量子限界を突破したことを検証できました。標準量子限界とは、光の信号とノイズの大きさが等しくなる光の強さのことです。
  2. 少ない光量で観察可能 – 量子もつれ光は、一方の光子の状態を観測することで、もう一方の光子の状態が決定されるという量子力学的現象を利用しています。このため、少ない光子でも高い感度でサンプルに関する信号を得ることができます。

量子干渉

あなたは浜松から名古屋まで旅行することにしました。

あなたには二つの選択肢があります。

一つは新幹線で行くことで、もう一つは在来線で行くことです。

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新幹線は速くて便利ですが、料金が高いです。

在来線は安いですが、時間がかかります。あなたはどちらを選ぶでしょうか?

このとき、あなたは一つの粒子と考えることができます。

あなたが新幹線で行く確率と在来線で行く確率は、それぞれの経路の「確率振幅」と呼ばれる量によって決まります。

確率振幅は、波のように振動する量です。あなたが新幹線で行く確率振幅と在来線で行く確率振幅は、それぞれの経路の長さや速さなどによって異なります。

あなたが新幹線で行く確率振幅をA、在来線で行く確率振幅をBとすると、あなたが名古屋に到着する確率は、AとBを足し合わせた後、二乗することで求められます。

これは、AとBが互いに干渉し合うことを意味します。

しかし、あなたが名古屋に到着する前に、あなたの友人が電話であなたがどの経路を通ったかを聞いてきたとします。

あなたが答えると、あなたの確率振幅は変化します。

あなたが新幹線で行ったと答えた場合、あなたの確率振幅はAになります。

あなたが在来線で行ったと答えた場合、あなたの確率振幅はBになります。

このとき、AとBの干渉は消えてしまいます。

あなたが名古屋に到着する確率は、Aの二乗かBの二乗になります。

これは、あなたの友人があなたの経路を観測したことで、あなたの量子状態が収縮したことを意味します。

このように、量子干渉は、観測者がどの経路を通ったかを知ることができない場合にのみ起こります。

観測者がどの経路を通ったかを知ることができる場合、量子干渉は起こりません。

この現象は、量子力学の非直感的な性質を示すものです。

参考文献

: 竹内繁樹, 『量子もつれ光で赤外分光法を革新する方法』, 浜松コンファレンス, 2023年11月3日. : 竹内繁樹, 『量子もつれ光で屈折率スペクトルを高速測定する方法』, 浜松コンファレンス, 2023年11月3日. : 竹内繁樹, 『量子もつれ光と光センシングの可能性と展望』, 浜松コンファレンス, 2023年11月3日.

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