ルノワールの芸術変遷 印象派、新古典主義、真珠の輝き 4つの画風をたどる~ベルギー王立美術館公認解説者・森耕治講演会

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ルノワールとは?

ピエール=オーギュスト・ルノワールは、1841年にフランス中南部のリモージュで貧しい仕立屋の息子として生まれました。

13歳で磁器工場で働き始めたルノワールは、絵付け職人として才能を発揮しましたが、産業革命の影響で職を失ってしまいました。

それを機に画家を志し、シャルル・グレールの画塾に入りました。ここでクロード・モネやアルフレッド・シスレーなどと出会い、印象派の仲間となりました。

印象派は、当時のアカデミズム絵画に反発し、自然光や色彩を捉えるために屋外で写生することを重視する画風です。

ルノワールはこの画風で多くの作品を制作しましたが、サロン・ド・パリなどの公式展覧会では批判されることが多く、苦しい生活を送りました。

1874年には、モネやピサロなどとともに、サロンから独立した印象派展を開催しましたが、これも世間から酷評されました。

しかし、ルノワールは諦めずに絵画制作を続け、1877年の第3回印象派展に出品した『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』で高い評価を得ました。

この作品は、パリのモンマルトルにあるダンスホールでの楽しげな風景を描いたもので、ルノワールの代表作の一つです。

その後、ルノワールはサロンに再び応募し、入選することも増えました。

また、画商やコレクターからも注目されるようになり、経済的に安定した生活を送ることができるようになりました。

1880年代からは、イタリアやアルジェリアなどの海外旅行を通じて、古典主義や新古典主義の影響を受けて画風を変化させました。

特にラファエロの作品に感銘を受けたルノワールは、明確な輪郭線や冷たい色調を用いるようになりました。

1890年代以降は、「アングル風」を脱し、温かい色調の女性裸体画を数多く制作しました。

評価も定まり、『ピアノに寄る少女たち』が政府買上げになったり、レジオンドヌール勲章を授与されたりしました。

私生活では、未来の妻となるアリーヌと正式に結婚し、子にも恵まれました。

関節リウマチの療養のためもあって、南仏で過ごすことが多くなりました。1900年代から晩年までは、カーニュ=シュル=メールで過ごし 、リウマチと戦いながら最後まで制作を続けました。

1919年に亡くなりましたが、その死の直前まで絵筆を握っていたと言われています。

森耕治さんが語るルノワールの芸術変遷

2023年9月3日に東京都練馬区の平和台図書館で開催される森耕治の美術史講演「ルノワールの芸術変遷」についてご紹介します。

この講演では、印象派から新古典主義へと画風を変えたフランスの画家ピエール=オーギュスト・ルノワールの作品を通して、彼の人生と芸術を探ることができます。

ルノワールの魅力や歴史的背景について、美術史家であり、ベルギー王立美術館やポール・デルヴォー美術館の公認解説者でもある森耕治さんがわかりやすく解説してくれました。

ベルギー王立美術館公認解説者森耕治さんが語るルノワールの芸術変遷~印象派から新古典主義へのリーフレットの画像

森耕治さんとは?

森耕治さんは、京都市出身の美術史家です。5歳の頃より油絵を学び、ソルボンヌ大学、ルーヴル学院、パリ骨董学院で学びました。2009年にベルギー王立美術館より、日本人として初の公認解説者として任命されました。

2010年よりポール・デルヴォー美術館の公認解説者も兼任しています。毎年10回以上の美術史講演会を開催しています。

森耕治さんは、特に19世紀から20世紀初頭のフランス絵画に詳しく、印象派や象徴主義、新古典主義などの様々な画風や画家について研究しています。

また、日本とヨーロッパの美術交流にも関心があり、日本美術史や日本画にも造詣が深いです。

平和台図書館とは?

平和台図書館は、練馬区で3番目の図書館として1976年に開館しました。開館以来「区民が誰でも気軽に利用でき、親しみのもてる図書館」を目指して図書館事業を展開しています。2015年度に大規模改修工事を行い、2016年4月再開館しました。

平和台図書館では、様々なジャンルやテーマの本を展示しています。特に、美術に関する本は充実しており、印象派やルノワールに関する本も多数あります。

講演会の詳細

森耕治さんの美術史講演「ルノワール芸術の変遷」は、2023年9月3日(土)午後2時から4時まで、平和台図書館2階の多目的ホールで開催されました。

この講演会では、ルノワールの作品を約50点紹介しながら、彼の画風の変化や芸術観について解説しました。

また、ルノワールが影響を受けた画家や時代背景にも触れました。ルノワールの美しく華やかな絵画に魅了されること間違いなしです。

ルノワールの画風は、大きく4つの時期に分けられます。

2.初期:1860年代から1880年頃まで。

印象派の画家として、光や色彩の効果を追求しました。代表作に「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」や「ランチョン・オブ・ザ・ボーティング・パーティ」などがあります。

3.乾いた時期:1880年代前半から中頃まで。

印象派の技法に疑問を持ち始め、形態や構成に重きを置くようになりました。代表作に「大きな裸婦」や「アルジェの女たち」などがあります。

4.真珠の輝きの時期:1880年代後半から1890年代まで。

再び色彩や光の効果に興味を持ち、柔らかく滑らかなタッチで描きました。代表作に「バレエの舞台裏」や「バティニョールの庭園」などがあります。

晩年:1900年代から1919年まで。関節炎に苦しみながらも、絵筆を手放さず、鮮やかな色彩と幾何学的な形態で描きました。代表作に「裸婦と花束」や「水浴する女たち」などがあります。

ルノワールの画風は、大きく4つの時期に分けられます。

2. 印象派の時期 1864年代から1882年

1864年代から1882年頃まで。印象派の画家として、光や色彩の効果を追求しました。代表作に「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」や「ランチョン・オブ・ザ・ボーティング・パーティ」などがあります。

「舟遊びをする人達の昼食」1880年-1881年

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女優ジャンヌ・サマリーの肖像画 1878年から1878年

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<イレーヌの肖像画> 1880年

イレーヌの肖像画とは、ルノワールが1880年に描いた「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢」という作品のことです。

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この絵は、印象派の中でも最も美しい肖像画の一つとされています。

描かれているのは、ユダヤ系銀行家のカーン・ダンヴェール(Cahen d’Anvers)伯爵家の長女イレーヌで、当時8歳でした。

イレーヌは後に女優となり、第二次世界大戦中にナチスによって、この絵は略奪されましたが、戦後に回収され、イレーヌに返還されましたものの、彼女は1949年に競売に出しました。

その後、スイスの武器商人ビュールレが落札し、彼のコレクション(Bührle Collection)に加わり、現在はチューリッヒ美術館に所蔵されています。

<舟遊びをする人達の昼食> 1880-1881年

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3. 乾いた時期

ルノワールは、1881年にアルジェリアやイタリアに旅行し、古典主義や新古典主義の影響を受けました。特にラファエロの作品に感銘を受けたルノワールは、明確な輪郭線や冷たい色調を用いるようになりました。この時期のルノワールの作品は、「アングル風」と呼ばれます。アングルは、新古典主義の代表的な画家であり、ルノワールは彼の技法や構成法を学びました。代表作としては、『大水浴図』3や『傘』などがあります。これらの作品では、デッサン重視で形態や構造を強調しています。
温かい色調(1890年代~1900年代前半)
ルノワールは、「アングル風」を脱し、温かい色調の女性裸体画を数多く制作しました。この時期のルノワールの作品は、「温かい色調」と呼ばれます。ルノワールは、女性の肌や髪の色を柔らかく表現し、その美しさや優しさを強調しました。代表作としては、『バレリーヌ』や『裸婦』などがあります。これらの作品では、筆触分割ではなく筆触融合という手法を用いて、色彩の調和や滑らかさを追求しています。

1880年代前半から中頃まで。印象派の技法に疑問を持ち始め、形態や構成に重きを置くようになりました。代表作に「大きな裸婦」や「アルジェの女たち」などがあります。

カノティエル

カノティエルは、フランス語で「船乗りの帽子」という意味の麦わら帽子です。平たいつばとリボンが特徴で、夏の日差しや紫外線から守ってくれます。オーシバルやSHOPLISTなどのブランドから、おしゃれで軽量なカノティエルが販売されています。

4. 真珠の輝きの時期

1880年代後半から1890年代まで。再び色彩や光の効果に興味を持ち、柔らかく滑らかなタッチで描きました。代表作に「バレエの舞台裏」や「バティニョールの庭園」などがあります。

晩年:1900年代から1919年まで。関節炎に苦しみながらも、絵筆を手放さず、鮮やかな色彩と幾何学的な形態で描きました。代表作に「裸婦と花束」や「水浴する女たち」などがあります。

<ピアノを弾く少女たち> 1892年 オルセー美術館

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まとめ

この記事では、2023年9月3日に平和台図書館で開催された森耕治さんの美術史講演「ルノワール芸術の変遷」についてご紹介しました。

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